辞めていく理由の中に必ずといっていいほど「研修で学んでいることがだんだんプレッシャーになってきて、とても実際のコールなどとれないと思ってしまう」というケースがある。最初からやる気がないのではなく、何とかついて行こうと頑張ったが、徐々に「自分には無理だ」と思い始める。すると研修に行くのも嫌になってしまう。完全に”生き生きと電話応対している自分”というイメージが崩れ去り、成功期待感がまったく持てない状況に陥る。これは本人の受け止め方やスキルレベルも影響しているため、会社として無理に引き留めることが良いと一概には言えない。しかし、皆の努力を考えると少しでもそれを防ぐ方法はないものだろうか?
いろいろな新人育成ケースを見てきて、ひとつ思い当たることがある。それは、教える側の「親心」が、かえって新人を混乱させているケースである。「親心」と書いたのは、親は子より当然経験を積んでいるだけ先が見通せる。すると、子がどこで大変な思いをするかがよくわかる。しかも、それを避けて通るための術も知っている。だから、子が望む前に先回りしていろいろ教えてあげようとする心理である。コールセンターでの新人研修を見ていても、限られた時間で相当な量のカリキュラムをお互いに消化しなくてはならない。入社時点の習熟度もまちまちなため教える側も大変だが、新人の中には、ひとつの躓きが次の躓きを生んで、わからないことだらけになる層も必ずといっていいほどいる。そういう人たちは、基本だけでも「知る」→「理解する」→「覚える」→「できるようにする」というステップに大きな負荷を感じている。
にもかかわらず、親心で「これはあくまで基本です。でも実際に電話を取るようになると、お客様はいろいろな対応を求めてこられます。当然基本だけでは対応しきれないことも多くあります。例えば…。こういう時のために、ついでに~ということも覚えておくと役立ちます。」と親切に情報提供する。しかし、この言葉の中には、
- 基本は勉強しているが、それだけでは役に立たない可能性が大きい。
- それ以上に、細かいことをいろいろ知っておかないと実際にはクレームになることも大いにありうる。
- ただ、それを覚えきるには道のりが相当大変そうだ。
- とてもではないが、この先ついて行くのは難しい。
導入研修はあくまで、入り口の座学であり、本当の教育は実際のOJTと連動して基本を反復・徹底してこそ、スキルとして身につく。家に例えると、どんなに洒落て見えるデザインでも、基礎がもろいとちょっとした雨風で不具合が出やすい。あまりに「短期勝負」で焦ると、突貫工事的な仕上がりで終わる怖さがある。実際、新人の定着が悪いと”採用側”、”研修している側”、”受け入れ側”で、「どちらに非があるか」的な不毛な議論になってしまうケースも多い。
最も大切なのは、「いったい何が本当の”基本(基礎)”なのか、をしっかり分析し、絞り込むこと」ではないだろうか。『基本=この力を地道にしっかり身につけておくと、いずれ応用が利く』という木の根っこのようなモノであり、本来はシンプルである。例えば、生け花では「真・副・体」、調味料では「さしすせそ」など。まずその心をしっかり体得することで、奥深い世界に入っていける。応対の仕事も同じである。しかし、それがいつの間にか”あれも、これも”になり、枝葉がいっぱい茂った中に新人を迷い込ませていることもありうる。それを改めて見直すことは、私たちの仕事の本質をクリアにするチャンスとなるのではないだろうか。
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サービスデザイン研究所
Service Design Institute
代表取締役/サービスデザイナー 袋井 泰江(Fukuroi Yasuko)
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